続レプリカ再論―偽装を犯罪として嫌う現代人の感覚から

前回、名古屋城のコンクリート天守=擬態(ぎたい)建築 の木造化再建について、
<< 擬態(ぎたい)ではない 完全なるレプリカ = 継承 に対して、我々は 強い 自信を持つべきです >>
と申しましたが―――

【冒頭余談】市民オンブズマンの「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」は何が何でもコンクリート天守を永続化するつもり

(※以下の写真はサイト「市民オンブズマン 事務局日誌」様からの引用)

ご覧の「求める会」いわく、
<名古屋城天守を「戦後復興市民のシンボル」に。現天守を壊してはいけません。戦火で焼け野原になって12年、ものづくり名古屋の復興のシンボルです。名古屋市は2億円もの浄財を市民から集めて復元したのでした>

ということで、「求める会」は週プレNEWSによると、
<河村たかし市長ら市職員13人を相手取り、竹中工務店に支払ったとされる設計料約8億5000万円は違法な公金支出だとして、市に返還を求める裁判>
を起こしたのだそうです。

       ↓          ↓          ↓

この <<歴史上の名古屋城天守はどうでもいい>> と言わんばかりの主張。
この方々にとっては、昭和に復興した擬態(ぎたい)建築の現天守だけが「すべて」! ! のようである…。

―――「だから 言わんこっちゃ無い」というのが、私の率直な感想でありまして、こうして「コンクリート天守」は一度やったらもうヤメラレナイ!…「薬物のごとき魔力を持っている」と以前に申し上げたとおりの展開が生じています。

ちなみに、名古屋城の近くには、市民オンブズマンの一大拠点がある…
(全国市民オンブズマン連絡会議の事務局が入居するチサンマンション丸の内)

市民オンブズマン。この方々の関心事は何かと推察するなら、きっと歴史上の「城郭」や「天守」は二の次、三の次なのでしょうし、そのために、我が国固有の建築様式である「天守」は、多くの地域においてコンクリート造が20世紀を起点に「固定化してしまう」という、歴史的なねじ曲げが、強力に推進されていくのでしょう。!…

ですが、いま現在、「コンクリート天守がイイんだ」と積極的に考える日本国民や名古屋市民が、どれだけ、いらっしゃるのでしょうか?

そんな当たり前の「民意」が、文化庁にはどれだけ伝わっているのか? と心配にもなる現在の状況ですが、そんな「民意」とは、実は、社会に横行する「偽装・騙(だま)し」に対する人々の厳しい目が、改めて、作用した結果なのではないかと思えてなりません。
 
 
 
<続・レプリカ再論――「偽装」を犯罪として嫌う現代人の感覚から>
 
 
 
「擬態(ぎたい)」と「偽装」は紙一重(ひとえ)の関係でしょうが、技術が進歩した昨今、私たちの身のまわりには、特殊詐欺やネット被害などが日常的に横行していて、とりわけ「偽装・なりすまし」は多大な金銭的被害をもたらすため(生理的な嫌悪感とともに)いっそう厳しく警戒されています。

つまり現代に暮らす日本人は、昭和のころのノンキな感覚とは、そうとうに違って来ているのだ、と感じるばかりでありまして、近年の事例で思い起こせば、中国製の偽ブランド商品、耐震偽装マンション、産地偽装食品、がせねたメール、フェイクニュース、歴史プロパガンダ、なりすましメール問題、などなど、かつては存在しない新たな危険が私たちを取り巻くようになりました。

ですから現代の人々は、フェイク商品だと解っていて購入するのは良くても、少しでも「騙(だま)された」と感じた瞬間に、あれこれと悪い連想を始めてしまうのか、パニック的な感情を爆発させてしまいがちで、そうした反応は「擬態(ぎたい)建築」に対する疑いの感情にも作用しているのかもしれません。
 

<<<あの中はどうなっているのだろう?>>>

という万国共通の! 人間の自然な「興味」が生じるような建物は、
外観だけ見せておいて、そんな期待を裏切る行為は「不誠実」と受け取られ、
悪くすれば「詐欺(さぎ)まがい」と受け取られてしまう可能性も…

(※写真はサン・ピエトロ大聖堂 / トランプ大統領の別荘マールアラーゴ / 名古屋城コンクリート天守と本丸御殿)

 

で、話題の石垣部会の構成員でもある千田嘉博先生は「天守を木造で復元する理論的な説明ができていない」と公言なさったわけですが、ところが名古屋市のホームページを見てみますと、昨年5月発表の「特別史跡 名古屋城跡 保存活用計画」の「第8章」PDFには、これだけ言えば充分では?? と思えるような説明が盛り込まれています。

その説明文には、昭和の復興の経緯から、耐震改修のメリット・デメリットの検討に続いて「木造復元の利点」や課題、等々が網羅してあり、ためしに「木造復元の利点」の部分をまるごと引用してみますと…
 
 
(特別史跡 名古屋城跡 保存活用計画「第8章」より)

木造復元の利点
1)特別史跡名古屋城跡の本質的価値の更なる理解促進
 復元に耐えうる根拠資料に基づき、外観だけではなく内部空間を含めて、より真実性の高い復元を行うことにより、往時の名古屋城天守の姿が再現され、次の観点から特別史跡名古屋城跡の本質的価値の理解をさらに促進させることができる。
 ・木造復元が進む本丸御殿と共に、近世期の名古屋城本丸を実感できる歴史的、文化的空間を甦らせることができる。
 ・現天守閣にはない、防衛機能を備えた天守の建築的特徴を観覧できることから、近世城郭における天守の役割や歴史的価値の理解を深めることができる。
2)文化的観光面における魅力の向上
 ・木造復元を行うことにより、近世期の天守の姿を実感することが可能となり、特別史跡名古屋城跡の本質的価値を構成する遺構と共に、名古屋城の文化的観光面における魅力を向上させることができる。
 ・観光庁実施の「外国人旅行者のニーズ把握調査」において、旅行出発前の段階で期待していたことの第6位に「伝統的な景観・旧跡」が挙がっていることからも、内部空間を含めて真実性の高い木造復元を行うことは、名古屋における文化的観光面の魅力向上につながると考えられる。
 ・木造復元工事にあたって、素屋根内に見学通路を設けることにより、復元中であるからこそ可能な、復元過程や伝統工法の技術に間近で触れられる機会を提供できる。
3)伝統工法による復元
 ・復元過程を映像として記録することにより、ウェブサイトや講演会など様々な媒体を通じて、伝統工法による大規模木造建築の魅力を幅広く発信することができる。また、それらの記録は、伝統工法を後世に伝える貴重な教材となり得る。
 ・伝統工法での復元において生じた課題やその検討手法、活用方法等の情報や経験を蓄積し、広く情報発信することで、その成果を名古屋城だけに留めず、全国の他事例に寄与することができる。
 ・伝統工法による木造建築物は、日常的な維持管理、中期的な修繕、そして長期的な半解体及び全解体修理を適切に行うことにより、何百年という長期にわたる維持が可能となる。
4)新技術の導入と伝統技術の融合
 ・名古屋城天守閣の木造復元においては、大規模木造建築物及び伝統工法の構造的な解析及び評価をおこなう。現代の基準において、それらの構造性能を再評価することは、現存する他の伝統建築物の構造評価を行う上でも有益な情報となり得、また、新たな伝統工法建築物を普及する材料となり得る。

 
 
おそらく、これ以上のことを書くのは、PRの広告文や具体的な計画書になってしまうので、これで充分だろうと感じますし、とりわけ文中の 「観光庁実施の「外国人旅行者のニーズ把握調査」において、旅行出発前の段階で期待していたことの第6位に「伝統的な景観・旧跡」が挙がっていること…」という部分は、私の経験からも、たいへん重要な木造化の理由・動機になるものでしょう。
 
 
というのは、かなり以前に、私の知り合いの外国人が、名古屋城天守から出て来た瞬間に「ガッカリ… です」と語った表情が今でも忘れられず、私も内心「しまった」と、彼の “期待値” を下げておく言葉をかけておかなかったことを、あとで悔やんだ経験があるからです。

で、このことはさらに、私が制作に関わったNHK番組「司馬遼太郎と城を歩く」の現場でも、似たような経験がありまして、それは放送が始まってすぐの頃に、視聴者モニターからのお便りで「天守閣の中がどうなっているのか興味があるので、必ず撮影をして下さい」との要望が寄せられました。

その時点でいずれの城も天守内部を撮ってはいたものの、コンクリート天守の場合は編集段階で落としていたわけですが、その後は、たとえコンクリートの殺風景な内部であっても、その様子が多少は分かるように編集方針を変えた、ということがありまして、やはり一般の方々の感覚には注意を払わなければならない、と思い知った次第です。
(※しかし実際のところ、私が担当したうちの岡崎城や松前城、平戸城などでは、天守内部の展示物を「展示物」として紹介はしたものの、内部空間そのものを紹介するカットは入れておりません… さすがにそれは出来ませんでした)

閉館前の名古屋城天守の内部や付属エレベーター

このように、昭和に復興したコンクリート天守が「展示施設」としていかなる役目を100%果たして来たとしても、それは従来の話であって、もう時代が違って来たのだ、残念ながら役目は終わったのだ、と申し上げざるをえません。

「あの内部はどうなっているのだろう」と訪問者がウキウキとして現天守に入った途端に、目の当たりにするのは「コンクリート壁面」なのですから、そんな衝撃的な「おもてなし」は 期待はずれの裏切り行為だと受け取られかねませんし、とりわけ私が心配なのは、しだいに目が肥えてくるはずの中国人観光客から、もしもケチをつけられることになったら、最悪だろうな、ということであり、是非ともそんな明日を想像してみて下さい。

もう、一刻も早い「解体」しか道はありません。
 

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